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JR武蔵五日市線の武蔵増戸駅から車で5分ほどの小高い丘の上に,緑の木々に囲まれた日の出ヶ丘病院がある.自然に囲まれ恵まれた療養環境は,地域住民からは物理的・心理的距離が遠いという欠点も併せ持つ.1968(昭和43)年に開設された当院の歴史は,地域住民の信頼をどのように得ていくか,また地域住民にどのようにしたら身近に感じてもらえるかを常に模索し続けてきた軌跡といってもよいであろう.その手段は,落合クリニックの開設(1989年)や都内4番目の訪問看護ステーションの開設(1992年),西多摩地区初のホスピス開設(2000年)など医療の提供にとどまらず,ボランティアコーディネーターの設置やヒーリングハープの病棟での演奏,また地域住民を招いたコンサートの開催,そして今回のアートプロジェクト『びょういんにおいでよ,わたしたちの!』と銘打たれた地域住民を病院内に招いての美術制作ワークショップなど多彩で,地域のための病院の一つのあり方を提案している.
改革への道のり
大蔵葉子理事長は1987(昭和62)年に現職に就任した.就任当時,地域住民の当院に対する評判は決してよいものではなく,また二人三脚で経営を担うことになっていたご主人を理事長就任早々に癌で亡くすという痛手も重なり,逆風のなかの船出であったと振り返る.こうした逆境の中で大蔵理事長は「まず地域の信頼を得ることが先決.そのためには自ら頭を下げてでも仲良くしてほしいとアピールし,できることからやっていくしか手はない」と決意し,冒頭に挙げたような試みを積極的に展開してきた.就任挨拶で理事長は「家族や知人に当院で働いていることを胸を張って言えるようになってもらいたい.そのためには,たとえ医師に対してであってもしっかりと意見を主張できるくらいプライドを持って働いてほしい」と病院職員に訴えたそうだが,生まれ変わるためには,まずは職員の意識改革が必要だと考えたからだろう.本当は音楽の世界で生きていきたかったと語る理事長だからこそ,前例にとらわれない市民感覚で改革に取り組めてきたのかもしれない.病院理念「地域と共に生き,信頼される医療の提供」は,3分で思いついたそうだが,これも理事長の信念と実績が揺るぎないものである証であろう.
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