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■「患者の視点」が重要であることは自明か
医療において「患者の視点」が重要であることは,一般に自明のように語られることが多い.
しかし,医療の専門家の間では,「患者の視点」の重要性について疑問を呈する人々が多い.専門家がこれまで独占してきた医療の意思決定に「患者の視点」が介入してくることに対する感情的な反発があることも事実だが,問題はそれだけではない.なぜ「患者の視点」が重要かについて,議論が不足しているのである.
ここでは,「患者の視点」がなぜ重要かという議論を尽くし,その本質的意義がどこにあるか,並びにそのことが医師,医療政策立案者にどのような意味をもつかについて述べたい.
■「消費者中心主義」 の限界
「患者の視点」が重要である根拠として,しばしば取り上げられるのが「消費者中心主義」である.あらゆる経済活動は消費者のためにあり,提供者は消費者のニーズを満たすために存在するという考え方である.これを医療に置き換えると,医療も経済活動の一つであり,医療における消費者は患者であり,その患者の視点に提供者は従うべきである,ということになる.
しかし,日本において「患者の視点」が重要である根拠を「消費者中心主義」に求めることには限界がある.日本における大多数の「患者」は厳密な意味での「消費者」ではない.確かに,一部の患者は,医療費を保険外診療で全額自己負担している.また,保険診療の場合でも自己負担は存在する.しかし,大多数の国民が活用している公的な医療保険は互助制度であり,医療を受診していることと,受診に要した医療費を負担していることは必ずしも対応していない.医療保険の支払額が少ないにも関わらず,受診量が多い人々は,互助制度を支える他の人々に自らの医療費を援助してもらっており,その意味では「部分的な消費者」であるといえる.
米国のように私的保険が主流の国では,支払った医療費に応じて,受けられる医療の質が変わるので,「消費者中心主義」が厳密に求められる.しかし,日本のような互助制度(社会保険)の国,または公助(税負担)の国では,「消費者中心主義」を患者の視点が重要である根拠とすることには限界がある.
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