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はじめに
四肢まひ患者のADLと一言でいうものの患者がADL上での自立を得ることの困難さは想像を越えるものがある.当病院においてこの1-2年でも表1のごとく24例の患者にOTを行なったが,目ざましいADL上の改善は得がたく遅々とした歩みである.それゆえ,患者も惰性に陥りやすくセラピストは患者の訓練に対する意欲を盛り上げるのに相当のエネルギーを費している.
そしてもっとも患者に意欲を無くさせている原因は社会復帰の見通しがつかないことである.ほとんどの患者は一家の働き手であって,四肢まひ患者は完全自立ということは不可能なのでどうしても人手を借りなければならず,たいていは妻が夫の代わりに働きに出るようになり家庭復帰はむずかしい.
一方,病院にもそう長く居ることもできずかといってこういう重度の患者を収容する施設は皆無といって良い.このような一般的状況の中でたとえば当初スプリントを装着して字を書けることで何かをなし得ると患者の気分も高揚していたのが,いつしか字を書けるといったってどれほどのことがあるのか――排尿の処置もできず他人に世話してもらっている身なのに――と自暴自棄に変わってくる.セラピストが限界を感ずるのはこの時期である.同時に病棟のナースも限界を痛感するのである.
四肢まひ患者は書くという動作自体はスプリントや自助具の使用でまあ何とかできるが(図1,2、3)その前後の準備・片づけはできないことが多い.OTにおいて比較的訓練をやりやすいのはこの‘部分’である.‘部分’すなわち‘書くこと’‘食べること’‘電話のダイヤルを回すこと’などは自助具やスプリントまたは器具の工夫により比較的容易にできるようになる1).
簡単にできるということではなく‘部分’を実用性のあるところまでもっていくことでさえ2-6か月の期間と患者・セラピストの多大の努力を要するのである.そしてたいていはこの‘部分’ができればその前後のつながりのところはできなくともそれでよしとする(せざるを得ないというべきか)のが現実の姿であるように思う.しかしながらADL上における真の自立は‘流れ’すなわちつながりの動作を忘れて考えることはできない.最近,四肢まひ者用の家屋が開発されたがこの‘ADLの流れ’を解決してくれるものとしてその実用化・普及を期待したい.
なお,与えられた原稿の副題にpre-voc.ということばがあったが,表1のように24例中退院したのはわずか2例であり,その内訳は1例が更生施設でありもう1例は比較的軽度の四肢まひで授産所に入所できたのみであって,解説が不十分であることをお許し願いたい.本当の意味での社会復帰が問題となるのはこれからであり,リハチーム全員の努力によってもなお困難であるといえる2).
私どもは,表1の24例の中から症例1-4を選んで検討してみた.
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