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はじめに
英国の理学療法協会の名称は,The Chartered Society of Physiotherapy(以下C.S.P.と略す)であり,その響きからも英国一流の格調の高さが感じられる.このC.S.P.の最初のおこりは1895年のことであり,この時は婦人マッサージ師協会(The Society of Trained Masseuses)として発足している.その後,多くの変遷を経て現在のC.S.P.に成長し,諸外国のPT協会の範として発展してきた.現在のC.S.P.の会員数は,1985年4月現在18,800人で,前年4月の17,652人と比し1年間に1,148人増となっている.日本の昨年度協会員は545人増であったが,組織率は低いように思える.また協会への入会は異なり,養成校に入学するとC.S.P.の学生会員として登録することを義務づけられる.そして卒業までに行われる全ての試験にパスすることにより,C.S.P.の会員(M.C.S.P.)として登録されることになる.この学生会員としての登録制度は,入学時より協会の存在を知り身近なものと感じるであろうし,近い将来の専門職としての自覚をめざめさせ,それが結束力の強い協会へと発展させて行く一つの源動力のように思える.
“Physiotherapy”には,毎号とも10ページ近くを削き講習会案内が提載され,その数は50以上もありテーマも多岐に渡っている.しかしこれら案内のある各ページの下欄には『C.S.P.はそれぞれの内容については関知しない』旨の注釈が載っている.また8月号の巻頭言「コースの選択では,コースによっては講師および内容や方法が適切でないものもあるので,受講しようとする者はそれが『価値あるものであるかどうか(給与加算,経験加算,ニードに則しているか)』を十分に見極めた上で受講するように警告を発している.同時にコース量だけではなく質も伴うように,コースを運営する側の者に対しても苦言を呈している.
これら講習会案内とともに,協会関係のニュース欄,読者からの手紙を紹介する欄(letters),掲示板(NOTICEBOARD)などがある.“letters”では,会員の主張や掲載された論文についての賞賛や批判が載せられ,それぞれがかなり厳しい言葉で表現されているのには国民性の違いが感しられる.しかし専門職としての向上を目指すならば,このような態度は学ぶべきであろう.“NOTICEBOARD”では,会員や地区支部からの寄付金が紹介されている.この寄付金はBenevolent Fundと呼ばれ12月号の巻頭言によれば,経済的に困窮している会員のために役立てられ,主に年長者の低所得会員,疾病や災害を被った会員に対して運用される.具体的には,クリスマス・イースター・誕生日の贈り物,車の燃料費,家の修繕・引っ越し,および必要があれば電動車椅子,電動タイプライター,眼鏡,歯科受診などの一部または全額の補助をする.この運用を決める委員会は4人のM.C.S.P.,2人のsocial worker,senior nurse,D.H.S.S.(Department of Health Service and Security)元局長より構成され年4回の委員会が開かれるが,緊急に運用が必要な場合には委員長決済で支給される.ちなみにどの程度の寄付金が集まったかを紹介すると,1984年11月~1985年10月の1年間に£25,216.22(約630万円),月平均£2,101.35(約53万円)である.この寄付金制度からも,英国(人)の社会保障に対する考え方が伺われる.さて本論では,1985年度版を「理学療法」,「精神障害と理学療法」,「精神科理学療法」,「地域理学療法」に分類し,それぞれの興味ある文献の抄録を報告したい.
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