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はじめに
老人問題は,今日,ますます拡がり,深刻化している.それは,寝たきり・痴呆(ボケ)老人,一人ぐらし老人などの問題として,主として考えられることが多い.しかし,そうした問題も,その内実を吟味していくと,世話・介護力の脆弱化あるいは欠如,社会関係の稀薄化(孤独,孤立),本人または世帯員の生計維持の困難など,いくつかの共通した内容を持っていることが明らかになる.
たとえば,家族規模の縮小や,その中での家族員の役割関係(就業,養育・介護,家事などについて)の変化などは,総じて,家族の機能を縮小させてきている.そして青壮年期における夫婦共働き世帯の増大が,教育,住宅の取得・維持,公租公課などの社会的費用の増大による家計の肥大化=生活苦,生活不安の深まりの中で,進んでいるということが,家族員のつながりを弱め,家族関係をいっそう不安定なものにしている.
一方,高齢者自身の問題をとっても,老齢期の主たる生活維持手段として,公的年金以外に依るべきものを持たない大多数の勤労者にとって,それが必ずしも充分でないという現状がある.東京都を例にとると,65歳以上の高齢者の場合,単身世帯で58%,夫婦世帯で32%,同居世帯で23%が,生活保護基準140%以下の低所得水準にある注1).
こうした広い意味での家族・地域破壊,生活破壊の進行のもとでは,老化に伴う疾病,虚弱化が,そのまま社会問題化するのは必然である.それへの社会的対応としての社会保障・福祉対策が,高齢者の側での福祉需要の高まりの中で強く意識されるようになってきている.その意味で,高齢者に対する広義の処遇内容と,処遇実践がどのように行われているかは,国民に広く共通した関心事となってきている.
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