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はじめに
都立世田谷リハビリテーションセンターが精神障害者の社会復帰訓練施設として発足以来10年になろうとしている.その間多くの利用者たちの結婚が自然発生的に成立していった.それは我々が想像していた以上の数で,宿泊部門利用者延べ370名中44名に及んでいる.ほとんどが単身者で生活全般に関わりを持つ宿泊部門と異なり,通所部門利用者の結婚に際しては,家族に主体性があり,当方はかけられた相談に応じているだけなので,一応本稿からはずすことにする.結婚は仕事とともに人生の大きな課題であり,生物的なレベルのみならず,基本的な欲求でもある.重度の身体障害者同士の結婚でも援助如何によっては可能な時代である.精神的弱者であり,生活能力に多少問題があるからといって,精神障害者の結婚を特別視するには当るまい.
社会復帰への援助の過程で結婚した人たちをみているうちに,我々は結婚にいくつかの意義を認めることが出来るようになった.たとえば,社会的に夫婦であるという自覚が大きな支えとなったり,ふたりの小さな共同生活の中で,愛情から出た思いやりや忍耐が身について,対人面にもよい影響が出るとか,抱き続けていた劣等感が解消されるなどのことがある.またパラ色の夢を描いて始めた結婚生活がうまくいかず,中断して始めて,地についた現実的な生活目標が樹てられるなど,援助如何によっては,離婚を経験したことが必ずしもマイナスの評価になっていない.このような点から我々は,結婚を社会生活経験の一つとして生かしてゆくべきではないかと考えている.
身体障害の場台は,身体的,経済的など生活上のハンディを如何に補うかが大部分で,心理面の問題は,当事者が自主的に解決の意欲がある場合が多いと思われる.それに比し精神障害者の場合は問題が幾分複雑である.障害そのものの捉えにくさに加えて,障害は固定的でも段階的でもない.援助にもタイミングと柔軟性が要求される所以である.
精神障害者の結婚問題を論ずるに当っては,精神力動的に捉える方法とか,数値をあげて,統計学的考察を加える方法などがあろうが,筆者は結婚を社会生活経験のひとつとして援助する立場で,当施設での実際の関わりを中心に述べてみたい.
なお当施設の宿泊部門利用者は家族の協力を得にくい単身者で,病名は大部分が精神分裂病である.
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