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はじめに
人間は,主に地上で活動しており,一般には重力という唯一の力に反応して平衡を保っている.
水中では,浮力と重力の二つの力の間で平衡を確立しなければならず,地上とは全く異なった姿勢反応が要求される.この姿勢反応を利用したのがラガツ法(Ragaz method)である.西独で始められその後,スイスに伝えられて,Zinn WM,McMillan J,Egger Bらによって自動的逆推力(active counter thrust)という概念が導入されて多くの改善をみた.この技法の目的は,より機能的で,速い,強い動きの出来る複合運動を温水中に得られる理学療法的効果のもとで行うことにある.複合運動としては,強い筋収縮の最も容易な筋走行に沿ったラ線・対角方向の動きを重視し,出来るだけPNF手技に基づいたパターンを導入している.改善されたこの技法の特徴は,水中における特異な姿勢反応とPNFパターンを結びつけ,自由浮遊位で回転することなく抵抗運動を実現したことにある.
患者は,ネックカラーと浮き輪の助けで水面に背臥位となる(図1).この自由浮遊位では,平衡維持のために患者は自分の筋力を全く必要とせず最もリラックスできる.訓練は,マンツーマンによる抵抗運動であり,理学療法士もかならず水に入る必要がある.患者の唯一の支持点となる理学療法士の安定性確保が重要となり,水深は直立位で第8胸椎~第11胸椎あたりとしそれを越えてはならない.また,水に不馴れな患者は,浮き輪の中でリラックスして横たわることが困難なので,開始時は,水に親しむために考案された方法,たとえば,McMillan Jによる脳性麻痺児に対する水泳指導法,ハリヴィック法(Halliwick method)を行うとよい.
また,水中という条件の異なったところでは,患者が自由に動いてしまうので,PNF手技を的確に用いることができない.特に促通機構のひとつである筋の伸張(stretch)は,著しく制限され,パターン運動の開始肢位で行うことは不可能であり,容易に行えるのは最終肢位のみとなる.しかし,その他の基本的促通機構のうち,次のものは水中でも使用できる.
1)最大抵抗
2)正確な用手接触
3)正常なタイミング
4)牽引と圧縮
5)簡潔明瞭な言語指示
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