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はじめに
一昨年のことである.退院患者のfollow upのために泊りがけで栃木県まで出掛けた.
患者は22歳の女性で大学在学中にトランポリンからの落下で受傷した.右C6上位型,左C5下位型(矢部の分類1)の四肢麻痺,当院で1年半程リハサービスを受けた.食事・洗面・書字は自助具にて独立,電話やタイプ,文化刺繍などの動作も道具をセットしてやればできるようになった.衣服は簡単な上着をなんとか着脱し,寝返りは1側のみ紐でなんとか出来,手動式の車椅子を平坦な屋内で操作出来た.退院にあたっては,家屋改造指導,主介助者の母親と補助介助者の姉に尿路管理や全身の機能調整など健康管理法,残存機能維持と日常生活動作の介助指導が行われた.さて10ヵ月後の患者の状態は……奥まった部屋に青白い顔をして寝ており,2台のテレビをベッドの左右に置き終日これを見て過ごしているという.ベッドは電動式であるも自分で操作はほとんどせず40~50度起こすと,たちまち起立性低血圧をおこし,時に食事さえも寝たままで介助してもらうという.母親はヘルニアで患者を抱えることが出来ず,車椅子に乗せるのは父親や姉のいる日曜日だけである.それでも退院後3~4ヵ月は毎週ちゃんと車椅子に乗っていたがだんだん少なくなり患者自身も起きたがらなくなってしまったという.家屋は街中の広い道路添いにぎりぎりに建ち屋外へのスロープがとれなかった.改造された風呂や洗面所,食堂は患者が使うことなく,奨めたリフターは家が狭いという理由で購入されなかった.
最近のもう一人の患者は,19歳,男子,高校在学中にサッカーで受傷した.機能レベルは上記と同じでADLの到達機能も同じようなものであった,当初はBFOや電動車椅子が使用されたが,退院時は手動式の車椅子であった.退院時の指導では,上記に加えて外泊訓練と通常から訓練場面内で実際に患者を扱い反復した介護指導を行った.母親は息子のために入院中に車の免許をとりワゴン車を購入した.この患者は退院時の機能はほとんど維持されておりベッドは手動式のギャジベット,日中は終日車椅子に乗っている.週2回自宅に絵の教師を招き油絵の指導を受けている.週2回は地域の福祉センターに出かけて訓練を受けており,尿路など定期検診のために当院にも出掛けてくる.この時は父母の附添いがある.家屋改造は患者用の別棟が母屋に続けて建て増された.郊外で家のまわりはまだ開発されておらず自室からのスロープで庭の散歩も出来るようになっている.介助軽減のためにリフターが購入され,それが使える風呂やトイレが作られた.
在宅患者の日常生活におけるこうした状況は,患者自身の身体機能面に,もちろん基本的問題はあるが,精神面や家屋状況および介護者の影響といったものがどんなに大きくかかわっているかを物語っている.またこの患者と家族への働きかけを他ならぬ我々がどのように行ったかという問題が出てくる.
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