プログレス
向精神薬の最近の動向(Ⅱ)―副作用,長期服用
吉田 弘宗
1
1慶応大学医学部精神神経科教室
pp.741
発行日 1981年8月15日
Published Date 1981/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1518102463
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薬の理想としては目的とする病的臓器または症状に対して特異的,選択的に作用し,生体にとっては不都合な影響つまり副作用を生じないものであることである.しかし向精神薬ではこのような理想的薬物は存在していない.たとえば最も身近かな例を考えてみると,幻聴の激しい精神分裂病患者に対しては何らかの抗精神病薬neurolepticaが投与される.この場合主な目標症状は幻聴という事になるが,患者には特有な眠気,アカシヂアakathisia(ムズムズとしてジッとしていられない着座不能),パーキンソニスムparkinsonismなどがみられたり,時に眼球上転発作(目がつり上がると訴える)や便秘が訴えられることもある.このために抗パーキンソン剤や整腸剤,肝庇護剤などが追加されることになる.そうするとneurolepticaの服用による副作用のためにさらに他の種類の薬物も投与されることになる.そして維持療法として長期間neurolepticaを使用すると遅発性ジスキネジァtardive dyskinesia(薬原性持続性不随意運動)が出現する.このように最も普通にみられる向精神薬の副作用を例示してみたが,一方ではここで出現する自律神経症状や錐体外路症状などからneurolepticaの作用点が大脳基底核や脳幹であることが推定されるわけであり,臨床的には副作用が出現する位の薬の使い方をしないと効果がないと主張する人もいる.またこれらの副作用とは別に,薬を使用するという行為に対する心理的依存の発生やプラセボー効果があることにも注意しておくべきであろう.
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