Japanese
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特集 学習障害
学習障害の神経学的要因
The Neurological Factors of Learning Disabilities
水野 悌一
1
Teiichi MIZUNO
1
1お茶の水女子大学 児童学科
1Department of Child Study, Ochanomizu University.
pp.338-343
発行日 1981年3月15日
Published Date 1981/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1518102364
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はじめに
学習障害の概念は,神経学の歴史の中では比較的新しく,19世紀中頃に始まる.ブローカ(1861)やヴェルニッケ(1874)はヒトの左大脳半球に言語の中枢が局在し,その部分の病変によって発語障害(運動性失語)や言語理解ができなくなること(感覚性失語)を発見し,学習障害に注目した最初の人となった(図1).
その後,1925年から1950年代にかけてシュトラウスとヴェルナーは脳炎後遺症として,集中力低下,注意転動,多動,抑制力低下などと共に学習能力の低下を示す小児について研究を重ねた.これらの学習障害児には,明らかに精神遅滞群も含まれていたが,知能は正常でありながら学習と社会行動の両面で適応できない群のあることが判明したため,彼らは明確な脳障害(精神薄弱など)と微細脳機能障害とを分けて考えるようになった.
オートン(1937)は言語および利き手と脳の優位半球との関係についての研究で,読字・書字障害児の大脳半球の一側は優位であるが,他側は機能していないことを明らかにした.
このように学習障害は,最初は器質的な脳障害として注目され,次いで微細脳機能障害の一部あるいはそれ自体と考えられるに至っている.現在では微細脳(機能)障害(minimal brain dysfunction,MBD)はその症状の多様性のために微細脳障害症候群(MBD syndrome)とも呼ばれ,学習障害と多動症候群とに分けられることも多い.学習障害は神経病理学的変化を伴わない認知機能障害として研究が行われているが,その概念の暖昧さから,ともすれば器質的因子や環境因子まで含めた,いわば「くず籠」的な用語として使われやすい.
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