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1.はじめに
神経症圏には,精神神経科を訪れる強迫神経症・不安神経症・ヒステリー症などに限らず,整形外科領域にみる脊椎過敏症・頸肩腕症候群・外傷神経症など,境界領域のものやいわゆる自律神経失調症とか心身症などが挙げられる.一方,これらに対する治療法には古くから,薬物療法・精神療法などが試みられているのは,周知の通りである.ことに,精神療法には,それぞれの理論・手技方法論などに差はあるが,いずれも心身相関の観点から単に心理面のみにアプローチするのでなく,その前提や過程には,身体緊張のリラックスを求めている.心的緊張が身体機能のアンバランスを招き,さらに,二次的に心理面の緊張を発症したり,身体機能の低下が心的緊張を昂める症例は,すべての臨床科でも多くみられる.とにかく,精神療法,なかでも,神経症とか精神障害の診断がつくと,身体面からの治療導入を軽視しがちであるが,逆に,身体療法ことに,理学療法的なアプローチは,運動器官.感覚器官などの動員で,いかなる症例にも導入しやすい利点があり,さらに,治療過程を通して患者の心理的側面を受容することも,比較的容易となる.この観点からすれば,理学療法は身体療法である一面,精神療法として位置づけられる.特に,神経症のように,患者の認識と行動パターンは,患者固有のものであり,その多くは,理屈として分っているが,どうにもならないのが現実である.そして,ほとんどが,筋緊張をたかめ,何らかの運動機能・感覚機能に不自然さを認めるのも事実である.たとえば,暗示療法・自律訓練法などのように直接的に筋のリラックスから導入するものや,森田療法のように安静臥褥から作業の過程で間接的に筋弛緩,筋労作の再統合をはかるもの,その他,禅・ヨガ,瞑想など筋肉・感覚器官のリラックスが心的ストレスへの治療なり,健康法として活用されている.また,行動療法・キネジオロジーのように,積極的に筋,感覚を再統合する技法も心理療法の中にみられる.神経症にみる精神・身体の交互作用には,それなりの生理的過程があり,その理解をもってアプローチすることは,患者に接する関わり方として必要なことでもある.実際に患者に対して,ROM・筋力・協調性・スピード,感覚面からの運動療法的アプローチや水治療法・電気療法など物理療法的アプローチをセラピストが,治療として行うことにより,患者は自らの訴えや身体症状を他者から,受容され認めてもらっているという気持になり,不安が少しでも取り除かれ,心の安定感を得ることができる.
今回,PTの立場として,書痙の患者と接する機会を得たので報告する.
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