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はじめに
書痙はジストニアという運動異常症の一種で,主に書字時のみ,亢進した筋緊張のために捻転した異常肢位や運動が出現する疾患である。書字量が多かったり,無理な筆圧をかけたりする時期が長引くと発症する。特定の動作の繰り返しが発症に関係し,他には音楽家,パソコンユーザー,旋盤工,調理人などにもみられ,職業性痙攣(occupational cramp)と総称される。この運動異常症は直接患者の生活手段を脅かすものであり,治療は社会的な面からも重要である。
書痙が最初に報告された歴史は古く,1800年代後半のヴィクトリア王朝時代にさかのぼる。当時世界貿易で繁栄していたロンドンでは,書記の間でscrivener's palsyと呼ばれる書痙が多く発生した。その後,仕事のときにのみ症状が出ることから,ヒステリー性疾患との異同が議論され,書痙がジストニアの一種とみなされるには,その後約100年の年月が必要であった。
しかし,1980年代から書痙がジストニアとして認識されるようになっても,職業性神経障害といえば外傷性,あるいは中毒性疾患が主体で,職業性痙攣のような機能障害は今日まで,さほど注目されてこなかった。一方,職業性痙攣は仕事内容の変化に伴い増加しており,正確に認識されるべき時期にきている。患者自身が心因性と誤解していることも多い。若くして発症すると職を失い,雇用者の無理解な認識から再就職も困難である。あるいは不自由ながらも続けているうちに,他の症状,例えば,お箸を使うといった巧緻運動までも障害され,反対側の手にも症状が現れる。こうなると仕事を辞めても治らず,著しくADLが低下する。そのため,このような機能障害を広く理解し,早期治療に導いていくことは社会財産を守るうえで重要である。
1985年にMarsdenらが,症候性ジストニア(脳梗塞や脳炎などの病気が一次的に存在し,ジストニアが二次的に出現した場合)を報告し,ジストニアは基底核の異常で起こると考えられるようになった(Marsden CD, 1985)。その後,書痙を中心に生理学的な研究が進み,定位脳手術時のヒトの基底核の情報も得られるようになり,現在では基底核を含む運動系ループで統一的に考えられてきている。しかしまだまだ未解明な点も多い。本稿では,まず書痙の病態を解説して,のち治療に言及する。
Abstract
Writer's cramp is classified as a focal dystonia. Abnormal sensory-motor integration is characteristic and loss of inhibition is seen in many levels,including cortex,spinal cord,and peripheral nerves. Altered,irregular firing pattern of the basal ganglia,as well as push-pull system of the motor loop,probably play an important role in the pathophysiology of dystonia. First therapeutic step is providing the information of pathophysiology to the patients and advicing them to reduce the amount of writing. According to severity,local lidocaine block or medication is used in Japan.
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