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1.はじめに
分裂病者のOTを試みる時,筆者が,最も苦労するのは,最初の出会いであり,彼らとかかわりを持つということである.八重九重に自閉の垣を巡らして,あるいは拒絶し,あるいは興奮状態に陥り,あるいは全くの受身を決め込んで心を開こうとしない彼らに近付くのは,並大抵のことではない.しかし,ひとたびこの第一の垣根を突破すると,彼らは,離れたり近付いたりの動揺を繰り返しながらも,治療者に依存する型での安定をみせはじめる.適切な依存関係を持ち得た時,治療目標が自ずから定まり,彼らとの苦労は,5割方実ったと思うほどである.
神経症の場合はどうであろうか.彼らは比較的はっきりと自分の悩みを認識している.OTに参加する目的も,一応主治医のすすめに納得していたり,必要性を感じて自ら参加してきたりする.一部の例外を除いて,出会いの手続きは,極,安直に終了するわけである.ところが,筆者の苦労は今,始まったばかりである.分裂病者が,その治療の中で,作業療法士の役割を,ある程度明確に与えてくれるのに比べて,神経症者は,なかなか治療者に役割意識を持たせてくれない.彼らは,主治医から,かなり深い精神療法,時には分析的な治療を受けているので,OTでは実際の体験の中での洞察をめざして,共同作業を通じて,社会的側面での諸問題を取りあげていく.そこで彼らの対人関係パターンと対峙しながら,時には自信をことごとく打ち砕かれ,時には治療者にあるまじき憎しみを掻き立てられたりしながら,じっと耐えていなければならない.彼らにとって,作業療法とは,どのように受けとめられ,どのように取り入れられていくものだろうか.こんなことを自問自答し続けるのが,神経症治療の,筆者にとっての偽らざる現実である.
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