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Ⅰ.序論
義肢製作の過程での“型とり”は,ギプス包帯などを用いて断端の陰性モデルを作る一連の操作を指している.この陰性モデルにギプス泥を注型,凝固した陽性モデルを元にしてソケットを作製するのが現在普通に不行なわれている方法である.陰性モデルにせよ陽性モデルにせよ,いずれも結局はソケット製作の元であるから,モデルが断端の動態的形状を表わしていなければ,出来上ったソケットは断端に適合しない.従って,折角作った義肢は,所期の機能を果さず,使用されないまま廃棄されることとなる.
義肢・装具におりる型とりから陽性モデル仕上げの作業には,材料,工具を巧妙に取り扱う技能だけでなく,材料の物性,解剖学,生理学の知識,切断者又は患者およびその状態をよく観察する能力,及び作るべき義肢・装具の生体力学を充分に理解していることが必要である.
型とりのやり方には,色々と異った多くの方法があり,どの方法を採るかはそれに当たる人の経験によるもので,その人の持っている知識に照らして最も簡単で且つ効率的な方法が選ばれる.どの方法によるとしても,切断者の正しい肢位と,ソケット製作までにほんの僅かの修正しか要しないような陰性モデルを作ることが根本のねらいである.陰性モデル又は陽性モデル修正は,多分に採型者の個人的判断の問題で,断端の状態,採型手技,採型時点でのもろもろの条件,要求される適合の種類,採型者の経験に依存するものである.
陰性モデルの採型から陽性モデル製作に至る作業は,義肢製作の過程のうちで最も重要な操作であるから,これは有資格の適合士によって終始一貫して行なわるべきもので,欧米諸国では既に古くから資格制度が実施されているが,我が国では残念乍ら現在まで適合士の資格制度は実現されず,野放しの状態である.採型から陽性モデル製作までの作業を,未経験の技術者に委ねることは,周到な指導監督を行なわない限り,殆んどの場合無駄な結果に終る.
義肢を適合することは,いくらひいき目に見ても,義肢と肢体との間で偽関節を作ることになり,従って義肢と肢体者の機能は,義肢装用中の動作の各段階での断瑞のグイナミックな形にてきたソヶットに依存することとなる.従って,生理学的・生体力学的な原理に適った適合を達成するためには,断端から入念に作られたモデルを用いるより外には今のところ最良の方法は無い.
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