The Japanese Journal of Physical Therapy and Occupational Therapy
Volume 12, Issue 10
(October 1978)
Japanese
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はじめに
この稿の執筆依頼のあった直後に13歳のダウン症児の入所があった.身長144cm,体重65kg,時たまたま端午の節句を控え,誰云うとなく「金太郎サン」のニック・ネームを早速頂戴した.愛らしいが極端な肥満児である.彼と同じようなダウン症児の入所が増えている.それが女児の場合はこうした愛称より醜悪さが目だつことが多い.1例をあげると14歳で入所した彼女は身長143cm,体重55kg,色黒で硬い頭髪が逆立ち,ノッシノッシ歩く姿は山門の仁王サンを思わせた.しかし入園後5年を経過した今日,体重は43kgに減じ身長は150cmに伸び,毎月1回は美容師に頭髪と美顔の手入れを続けたことが効を奏し,入園時の面影は全く消え,むしろダウン症特有の容貌が愛嬌となり,娘という美しさをかもしだしている.金太郎サンもやがて彼女のようにスマートになることを期待している.というよりそうしなければならないのである.
この2例は何れも特殊教育を受けており,中学在学中に両親の強力な願いがかなえられて当園(福祉収容施設)に入所したのである.もし,このままこれらのケースが中学,或いは高等部(養護学校附設)を卒業するまで居たと仮定すると,この肥満体質は止まる所なく増加したであろうと思う.実はそうした現実を見聞している.
健常者でも肥満すればそれだけ心臓に負担がかかるのに,ダウン症の場合は心臓に先天的に疾患を持っている比率が高いだけに,大へん危険であり,成人しても社会就労することはむずかしい.しかし,前例の彼女は近い将来就労が考えられる状態になっている.
当園が過去25年間にケアしたダウン症,または在園しているものの計数とその実態と将来の洞察については表1に示す通りであり,しかも本題に該当する計数は僅か13名であり,ここからダウン症の成人像を云々することは大へん冒険であり僣越である.
そこでダウン症の親の会員(当園に在園している)に実態調査の資料提供を願ったのであるが,親達は快い返事をしなかった.押してその理由を質すと,「きっと悪いデーターになります」「それでこの子らの問題性をとりあげることが,この子らの幸せにつながるのですか」「それより,我々はここにいるのですから,ここのデーターを…」等々の意見や希望を出されたので,我用引水の御非難を甘受することにし,また冒頭に掲げた肥満児がその一端を証明しているとも思われるので,あえて下掲の当園の実態より述べることにする.
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