特集 精神科作業療法の展望
<随想>
ふと,ふり返って……
平尾 一幸
1
1国立犀潟療養所
pp.329
発行日 1978年5月15日
Published Date 1978/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1518101682
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お恥かしい話ですが,私は精神科OTを一種の魔術の様に思っていたようです.患者と話していると,治療者には彼の心の内面を読めるかの如く,悩みを,また,その原因を発見できる.そして,治療者と共に何か創造したり,考えたり,話し合ったり,楽しんだりすることによって,患者は少しずつ人間性を回復していく…….そんな劇的な関りをイメージしていた様です.精神病と片想いの悩みなんかとを同じレベルに置いた様な,甘い考え方があった様です.そして,評価とかラポール,ゴール,ニードといった言葉を代入すれば,一応OTの公式ができると考えていたのです.
しかし,実際には,精神医療はもっとドロドロしたものであり,患者は生活の延長上の細々とした問題をもひっくるめて,治療場面に現われるのです.金銭的な問題や,家族内のトラブル,医療への不信や,出稼ぎ,過疎化といった地域問題,果ては夫婦間の愛憎までにも,時には,治療者は関らざるを得ないのです.例えば,退院患者のアフター・ケアにおいて,生活の破綻に注意することが必要ですが,治療者が社会的にも,精神的にも様様な経験を経ない者であれば,患者は真に受け入れては呉れません.患者に甘くみられる,といったこと以前に,自分が処理できぬ現実問題も多く,充分に患者に援助できないことで,自分が惨めになりました.自信と責任,実直さといったOTとしての技術以前の,精神医療に携わる者としての資質といったものを考えさせられました.
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