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はじめに
脳卒中によって起る障害は,多種多様である.運動障害・感覚障害・知覚障害・失語症等,どれをとっても難解な問題である.しかし,その中で,上・下肢の麻痺,失語症に対する治療は多くの人が扱い,数々の文献がよせられている.だが,実際に脳卒中の患者を治療してゆくうちに,脳卒中で起る障害はそれだけではなく,顔面が麻痺した患者を多くみかける.その麻痺が軽度の場合は,よだれが時々出たり,食物が口に残る等,日常生活に大きく影響しないが,重症の患者になると構音障害によるコミュニケーション障害,食事障害(咀嚼・嚥下障害)がおきる.
脳卒中による顔面麻痺の患者は,これまで普通に食事をしていたのが,発病した日を境にして,よだれが流れ,食物がダラダラロからこぼれる.又食物によっては,小さく切らなければ食べられなくなってしまう.又顔の形が変わってしまうということも,患者にとっては大きな負担になる.これらのことは,日常生活に大きな問題点を投げかけると共に社会復帰する場合の阻害因子となりうる.
作業療法士として,食事動作改善を目標として,この顔面麻痺に取組むことを思いたった.その方法として従来行ってきた,3つのアプローチをとった.すなわち,残った機能の最大活用,機能訓練,自助具の作成である.残った機能の最大活用の為には,実際の食事訓練をし,その時に起る問題点を一つ一つ取りあげ,食事動作を改善させていった.機能訓練としては,器官の動きを出させるためPNFの中にあるFacial Stimulationを使い固有感覚を与えながら,運動をガイドしていった.又,嘔吐反射を使い筋収縮をも誘発した.そして,重度の場合に食物,よだれがこぼれ,片付けが大変な場合にビニールをはったエプロンを使わせた.その他の自助具は,まだ考えられていない.
幸い,現在同じ顔面麻痺によっておこる麻痺性構音障害に取組んでいる言語療法士という有力な協力者を得て治療を行っているが,より良い評価方法・治療方法を探して試行錯誤の毎日である.ここに言語療法士と二人三脚で,三カ月間扱った一症例を顔面麻痺と食事動作を中心にして報告し,理学・作業療法士の皆様の御意見を仰ぎたい.
症例:男 43才 会社員
診断名 脳血栓による左不全麻痺
病歴 昭和46年5月21日に発病.その時には,左上下肢が動かず,話せなかった(詳細不明).その後数日間にして,上下肢の自動運動は可能となったが,声は出なかった.
当院入院までに発病時にN病院に4カ月,指圧の4カ月,H外科病院に8力月入院していた.外科病院では,笑う時にしか出なかった声が,少し出るようになったとのことであった.
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