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Ⅰ 病因・病態
感染症として顔面神経麻痺を考える際,ウイルス感染,特にヘルペス属ウイルスが重要である。1907年にJames Ramsay Hunt1)は水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)による顔面神経麻痺の存在を報告し,Ramsay Hunt(RH)症候群の疾患概念を確立した。また,1972年にはMcCormick2)が特発性顔面神経麻痺であるBell麻痺の病因として,単純ヘルペスウイルス(HSV)の関与を示唆した。1996年,この説はMurakami3)らにより立証され,現在ではBell麻痺の主病因として定着している。
VZVとHSVによる顔面神経麻痺の病態には類似点が多い。ともに膝神経節で再活性化したウイルスが側頭骨内の膝神経節周囲で炎症を起こし,狭い顔面神経管内で浮腫と虚血,絞扼の悪循環により神経変性が進行する(図1)。神経炎症の程度が強ければ脱髄よりも軸索変性の割合が増え,側頭骨外末しょうへWaller変性が広がる。高度麻痺となるのは,初期の膝神経節でのウイルス性神経炎症の程度と相関すると考えられている。一方,VZVとHSVでは神経障害性が異なる。RH症候群の多くは第Ⅷ神経障害を伴う多発脳神経炎であり,HSV性顔面神経麻痺よりも重篤である。VZVとHSVの神経障害性の違いは,VZVの潜伏感染部位と再活性化様式の差に由来する。HSVはニューロンに潜伏し,再活性化は高頻度であるがマイルドで,再活性化後はニューロンに再び潜伏感染する。HSVは自身の住処であるニューロンに対しては愛護的で,ニューロン障害は局所免疫の低下時や特定のHSV株,特殊なニューロンに限定されると考えられている。一方,VZVはサテライト細胞に潜伏感染し,その再活性化は低頻度だが神経障害性が高い。ニューロンは破壊されることが多いため障害は不可逆的となり,後遺症に終生悩まされる患者も多い。
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