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はじめに
失調症の概念をとらえるために運動失調症の代表的なもの4つを列挙しました.
運動失調症とは筋力に異常がないにかかわらず協調運動の障害のため複雑な運動を正確に行ないえない状態をいう.
通常の運動は単一筋の運動ではなく,多数の筋の協調によって完成されている.この多数の筋群が合目的に運動ができるよう指導する機構の補助により,初めて円滑に敏速に行ないうるものである.
この複雑な運動を調節するものは筋覚,腱覚,関節覚などより来る深部知覚および皮膚知覚であり,一部は眼より,更には一部は自己平衡をつかさどる器官すなわち三半規管と小脳,大脳などの作用である.なおマグヌスは頚反射,体位反射も重要な意義があるといっている.
脊髄性失調症の中で最も重要な役割を持つものは深部知覚で生体の平衡はこの求心性知覚を受けて絶えず調節されるのである.この線維は脊髄後索を上行するもの,あるいは小脳と脊髄を連絡する線維などからなる.したがって脊髄癆,フリードライヒ氏病,末梢神経炎にこの種の運動失調症が見られる.
一般にこの失調症は眼の協力を除外すると顕著となる.
脊髄性の測定異常性運動は様々な方向にdeviationし,そのなす角度もきわめて変異に富んでいる.目標に達するのは,全体として無秩序で不器用な身振りをなしつつ,とどまったり繰り返したり,なんべんも不規則な動作を行なう.動作がゆっくり行なわれたにしても方向性を失っていて,目を閉じると方向のずれは著しく増悪する.つまりこれは測定異常性というよりはむしろ測定不良性といえるのではないか.
小脳性失調症は小脳の特種機能の脱失により起こる.歩行は蹣跚で酩酊のようで,一側小脳の障害時にはその側に倒れやすい,身体は静止時にも動揺することがある.
深部知覚障害も同時にあるがこれは脊髄性失調症の時ほど,高度でない場合が多い.
共同運動の障害としてdysmetrieがあり,合目的運動をする時,運動がいき過ぎるHypermetrieと目的に達しないHypometrieである.
小脳性運動失調症の一つと考えられるadradochockineseは拮抗筋の変換運動を円滑に迅速に行ないえない状態である.
小脳性の測定異常性運動は同じ条件内で同じ動作を行なう場合には,その動作は同じ性値をもって繰り返されるのが普通である.繰り返して起こる場合は必ず同じ方向にずれるのであっていわば系統的に起こる.運動が速ければ速いほど限界を通りこすが,方向性は失わず,目を閉じても影響はない.
大脳性失調症は大脳の各部から小脳に連絡があり,運動調節を行なうと考えられているがこの中で比較的存在が確実とされているのは前頭葉性失調症で,これは小脳性失調症と類似するが異なる点は病巣と反対側身体部位に失調が現われる.前頭葉の病変でことに起立,歩行が不可能となる場合がある.
迷路性失調症は前庭神経装置の病変によるもので小脳性失調症に類似する.躯幹の失調が主で偏側性で病巣部位に倒れやすい.
以上のように失調症は他の症状が多様にからみ合って発症していることを含め,失調症を完全に治療することは困難である.現在ある程度の効果を認められているのは,脊髄性失調症に対するFrenkel's運動と四肢に重量を付加する方法である.
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