講座
手指の運動学(1)
荻島 秀男
1
1三愛会伊藤病院リハビリテーション部
pp.29-33
発行日 1971年2月9日
Published Date 1971/2/9
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1518100396
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はじめに
人間の日常生活の中で物を見るのに関係がある目の筋肉と,あらゆる日常生活動作に関係ある手指の筋肉は,最も高度な協調性および巧緻性を要求され,非常に細かいコソトロールを行なっている.人によっては上肢の目的はあくまでも手の位置を決定するための付属物だとも言っている.不幸なサリドマイド奇型児,Phocomeliaの子どもを多く見ると,手はあっても肩から直接であり,腕がないゆえ各種の日常生活動作が不可能または困難で,確かに上肢は手を自分で思うところへ持っていくための付属物のような気にもなる.世界各国で考案されている電動上肢,義肢の試作品を見るに,Feeder(BFO)を使った上肢も,つまりは手を目的の位置に持っていくための工夫手段である.
人間の手は‘たたく’‘つまむ’‘つかむ’‘なでる’‘おさえる’など実に種々の機能を持ち,手および指の運動学でもいまだに解明されていない点が多く,勉強すればするほど人間の手の優秀さ,微細な点にいたるコントロールおよび協調度にただ感心するのである.特に母指の対立と指の機能分離が,訓練により高度に可能であること(ピアノやタイプライターを使うのがよい例であるが)は,脳の発達分化,起立歩行と並んで,人間が他のいかなる動物の追従をも許さない地位を,地球上で確立した著明な進化である.
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