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はじめに
脳性麻痺児のADLという課題に取り組むときには,当然考慮しなければならないいくつかの要素がある.おそらく最も明らかなのは運動機能の障害という症状であり,これにどのように対処するかが問題となる.洋服の工夫やdeviceの使用,さらにまた健常者とは異なる着(脱)衣法の指導が必要となるゆえんである.
第2は,発達的要素とそれにかかわるしつけ的要素である.生下時(またはその直後)既に脳障害がありながらすべてのことを新しく学びとっていかなければならない子どもに対して,どんな時期にどのような生活習慣を教えていくのが発達上無理がなく,学習として最も効果的か,という問題がはいってくる.この点が脳性麻痺児のADL指導のかなめであるといってもよい.
第3に,いわゆる脳損傷児の知覚や思考の特性といった問題がある.Straussが指摘するように1),彼らには,部分末梢にとらわれて全体像を把握することの困難や,対象物を背景から分離して知覚することの困難が正常児に比較してはるかに高い(もちろん全例にこの傾向があるわけではないから,いくつかのテストによって2)その可能性を予知することは必要である).そこで,正常児をしつけるのとは異なる指導上の配慮が必要となってくるのである.
第4には,経過の長さがあげられる.幼児がある生活習慣を試みはじめそれを完成するまでにかかる時間は驚くほど長い.たとえば山下俊郎は,幼児がひとりで服を脱ごうとするのは2.0歳からであるが,それを自分で全部できるようになるのは5.0歳であるという3).このような息の長さが(脳性麻痺児では正常児以上に),教える側で当然考慮されているべきであり,母親にもまた,そのことが十分伝えられていなければならない.
山下はその著書の中で,‘アームストロングは,ボタンをかけられる幼児は性格がしっかりして独立心に富んでいることを統計的に証明している’と述べている.脳性麻痺児にADL指導(ここでは更衣)を行なうことの意義目的を象徴的に述べるため,引用するにふさわしいことばといえよう.
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