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I.はじめに
小児の中耳真珠腫が大きくなる速さや再発傾向が成人のそれより著しいことは常識的になっている。真珠腫の治療には手術以外にないが,その治療は再発との闘いである。そのため再発しないようにするにはいかなる手術法がよいか,再発を早期に発見するにはどのような方法がよいか,などの問題がある。そしてなによりも手術技術が優れていることが求められる。ところで手術の結果の評価には一定の術後の期間が必要である。この期間を考慮しないで評価しても正しい評価にはならないし,データ相互の比較もできない。したがって①一定の技術水準の術者が,②どのような手術を行い,③どの程度の期間観察したならば,④手術が成功したといえるか,というのが正しい問題の立て方のように思われる。しかしこのことについてはすでにいくつかの経験の報告がある。それらの報告をみて気のつくことは,①術者によって手術の力略が異なること,②観察期間が一定せず意外に短期間の観察で再発の状況がまとめられていること,である。①については術者の技術水準や患者の医療環境が関係することであり一概に規定できないが,②については研究上でも臨床上でも重要な問題を含んでいるので,とくに重点的に考察したい。考察の素材として,国立小児病院における昭和49年より昭和53年までの5年間の24例,昭和54年より昭和56年までの3年間の22例の自験例を用いることにした。このようにすると,前期群では昭和62年5月末現在の時点までに初回手術より最長13年の観察が行われたことになるし,後期群でも最長8年の観察が行われたことになる(図1)。観察の内容は,①手術時の真珠腫の存在部位,②耳小骨の破壊の状況,③再手術の回数,④手術の種類,⑤再手術時の所見,などである。手術治療の力略として,前期には中耳根治手術をとくに避けるということをしていない。後期の場合にはできるだけclosed mcthodの鼓室形成を行うよう心掛けたが,段階手術は一部にしか行われていない。方略としてclosed methodとstagedoperationを追究しだしたのは昭和57年以後で,その結果を評価するには経過年数が足りない。手術は主として一定の術者が行うよう計画された。手術には育成医療が適用された。
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