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I.緒言
真珠腫は表皮組織が側頭部ないしその周辺の頭蓋内に侵入した病態であり,その一つは胎生時代の表皮迷芽によるもので先天性真珠腫である。頭蓋底付近に発生し古くより腫瘍として取り扱われている。そして腫瘍内にcholesterinの含有が多いのでcholestcatomaと呼ばれたが,外観が真珠様に見えるところからpearl tumorともいわれた。しかし結局真珠腫cholesteatomaという名称が用いられるようになった。その後真珠腫と同じ組織像を持つ病態が中耳,乳突洞にも起こることがわかったが,これは腫瘍ではなく外耳道ないし鼓膜の表皮の中耳腔内侵入によるものと解釈され,仮性真珠腫または中耳真珠腫と呼ぶことになり,迷芽による先天性のものを真性真珠腫ということにした。したがって今日でも中耳の真珠腫のことを仮性真珠腫という人があるが,一般的には中耳真珠腫という病名が使われるようになった。ところで中耳にも迷芽による真珠腫の存在が明らかになってきた今日,これを真性真珠腫とはあまりいわないでcongenital cholesteatoma(先天性真珠腫)という表現で表わすことが普通になった。そして中耳に出現する真珠腫は先天性真珠腫congenitalcholestcatoma,後天性真珠腫aquired cholesteatoma(中耳真珠腫)に分けている。本論文で扱う病態は中耳真珠腫である。本症の成立機転についてはすでに教室の佐野1)が「実験的真珠腫」という論文の中で詳しく述べているが,ここでは多少趣きを変えて成因論を記載し,最後にわれわれの教室で系統的に研究してきた本疾患の成因について紹介していく。
さて真珠腫症とは中耳や乳様突起内に表皮組織が存在し種々の程度の炎症病態を有する疾患を指すことは周知のところであるが,本症の成因論となるととりもなおさず中耳・乳突内に表皮が侵入ないし出現する機転の解明のことである。これには二つあり,その一つは慢性炎症の刺激による中耳乳突腔内の線毛上皮の扁平上皮化生であり,他は外耳道,鼓膜表皮の中耳腔内侵入(広い意のimmigration)である。
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