鏡下咡語
私の学生いじめ
原田 利治
1
1国立音楽大学
pp.214-215
発行日 1987年3月20日
Published Date 1987/3/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492210278
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私は故林義雄先生の弟子であったご縁で,くにたち音楽大学で音声生理学なるものを講じていますが,期末試験が近づくと決まって問われるのは,「先生,出題の範囲はどこですか?」「ノートの持ち込みはいいんですか?」といった低次元のものばかりです。ところが幸か不幸か音大の学生の大部分は可愛らしい女の子ですから私としてはここで進退に窮します。あまり易しくては甘ちゃん先生の美名(?)が学内に拡がって他の教師方の思惑も憚られますし,さりとて歌やピアノの実技の優れた者をタカが一つの学科の単位で落すのは不憫です。そこで考えたのが,教科書(恩師のご著書に私が少しく増補したもの)とノートの持ち込みを可として最低50点は取れるように出題を按配し,さらに高点を望む者にはちょっと捻った問題を出すことにしたのです。
もっとも「教科書ノート持ち込み可」には「学生の人気取り」との陰口が聞かれないではありませんでしたが,「これは語学の試験ではないのだから丸暗記の必要はなく,それに折角買った教科書も卒業すればおそらく一生読み返すこともあるまいから,このさいもう一度通読の機会を与えてやるのです」と正当化してしまいましたが……。
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