発言あり
いじめ
pp.289-291
発行日 1986年5月15日
Published Date 1986/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207251
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競争社会から共存の社会へ
「いじめ」の構造はまだ明確にされてはいないが,かなり複雑であることは容易に想像できる.青少年に関連した社会病理現象としては,かつては非行が中心であったが,時代が進むにつれて非行に家庭内暴力が加わり,それが家庭内から学校内における集団的暴力に拡大してきた.さらに,その性質もきわめて陰湿なものに変化してきていることが報告されている.
「いじめ」は病める社会の一現象であるが,その表出の仕方は習慣病といわれる成人病と酷似している.慢性疾患の病理過程が人の日常生活の中で徐々に進行していくのに似て,子供達が成長していく過程で,親たちの価値観に舵をとられながら人生が方向づけられていく.教師も子供達の能力を発見し,それを伸ばしていくという教育本来の目的を忘れて,一流高校,一流大学への進学を最大の目標にした知識偏重の教育に全力投球する.一流大学から一流企業や上級官庁への就職,あるいは高い社会的地位が約束され,その結果幸福な人生が送れるという期待がある.その期待が確かに実現できる可能性が現実にあるから,全国の青少年達が受験競争に挑戦するのであり,また親も教師もしった激励するのである.こうした教育の中でついていけない子供に,本来あってはならない「落ちこぼれ」というラベリングがなされ,学業成績によって序列化されていく.
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