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日本で花粉症(pollinosis)が注目され,一般に関心が高まったのは10年ぐらい前からである。とくに春先のスギ花粉によって起こる花粉症は,北米のブタクサ花粉症,欧州のイネ科花粉症とともに,現在の世界3大花粉症と呼ぶことができる。花粉症を起こす原因植物は,日本でも研究調査が進むにつれて,現在職業性花粉症も含めると40種ほどに上る。本欄では3回にわたり,花粉症として報告され,あるいは注目されている原因植物と,それらの花粉の形態的特徴を紹介したい。今回は春先のスギ花粉と相前後してみられる木本性の花と花粉8種類と,それに早春のフレーム栽培などで職業性花粉症として報告されている4種類の計12種類を紹介する。また本欄に紹介するおもな花粉症原因植物の開花暦を表1に示した。開花歴は関東地方を中心に作製してあるので若干開花時期は地域によりずれる。今回紹介できなかった春先の花粉症原因植物としては,欧米で重要視されているハンノキ属(Alnus),ヤナギ属(Salix),ハコヤナギ属(Populus)に含まれる種類,さらにハワイなどで花粉症が知られているスゲ属(Carex),また本欄で取り上げたヒノキとほぼ同時期に見られるサワラやネズも注目すべき植物である。しかしながら同属あるいは同科の中には花粉だけでは同定できないきわめて花粉形態の類似した種類がある。たとえば曲がった突起物(パピラ)のあるスギ花粉のみを,ヒノキやコノテガシワの花粉もみられる捕集スライドからピックアップすることは容易ではないし,ましてやハンノキ属を種類まで同定するのは不可能に近い。したがって空中花粉の同定にさいしてより正確な同定を行うにはまず調査地点の周囲5kmぐらいの植生を調査し,表1のような開花暦を作製し,さらに主要植生種の花粉の標準プレパラートを作製し,同定のさいに十分活用すべきである。
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