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I.疾病概念
バセドウ病は医学史家によれば最も同義語や発見者名(eponym)の多い病気であり,20以上の名称があると言われている。英米ではRobertJames Graves(1796-1853)の名が冠せられることが多い。このDublinの内科医は1835年にPalpitation of the heart with enlargement of the thyroid glandと題する論文で2例の本症の記載をした。しかしこれより以前にCharles des Saint-Yves(1667-1733)が1722年に,AntonioTesta(1755-1814)が1800年に,Giuseppe Flajani(1741-1808)が1802年にそれぞれ本症を記載している。この3人は甲状腺腫と循環器系または眼の症状との関連性には気付いていなかったと言われている。本症を最初に最も正確に記載したのは,英国BathのCaleb Hilier Parry(1755-1822)である。彼は本症の8例について報告したが,出版されたのは彼の死後の1825年であった。一部に本症をParry病と称することを提唱するものがあるのはそのためである。ヨーロッパでは1840年にMerseburgのCarl Adloph von Bascdow(1799-1854)が本症の4例について文献的調査も含めて報告した。彼の記載による甲状腺腫,眼球突出,心悸亢進はDas Merseburgcr Triadと言われているが,彼が記載したのはそればかりではなく,pretibial myxoedemaまでを含む主要なほとんどの症状を記載し,かつそれらの関連性を考え本症の概念を確立した1)。
本症の原因は未だ解明されていないが,本症の患者の血清中にあるIgGが里状腺を刺激するので,自己免疫病であろうとする説が有力であり,最近では甲状腺のTSH receptorに対する抗体を実験的に作り,その抗体が里状腺刺激作用を有するとの報告もある2)。また家族性に発生することが多いので,体賢的または遺伝的な因子が関与している事は明らかである。HL-Aの分析では日本人ではBw35と相関があり,欧米人の場合はB8とDRw3との相関が報告されている3,4)。
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