鏡下咡語
裏方医者
米山 文明
pp.544-545
発行日 1983年7月20日
Published Date 1983/7/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492209637
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深夜突然電話が鳴った。大阪からの長距離で,相手は指揮者の森正氏。「実は来日中のソプラノ歌手クレスパンが,今晩大阪のリサイタル直前に突然演奏不能になってしまった。3日後に東京でリサイタルがあるので,明朝の飛行機で帰京するからすぐ診て欲しい」との依頼である。1971年春のこと,フランスの歌の女王といわれる世界的歌手の初来日で,私もぜひ一度聴きたいと思っていた人であった。のどの状態は急性の炎症で,応急処置の結果,リサイタルは幸い好評で,本人も満足し,私も大変感謝された。
多年にわたる私の診療対象の大部分は,声の使用を職業とするか,またはそれを志している入達である。だから私の側は,華麗な表舞台に立って活躍する人々を,蔭で支える分野の一部を分担しているわけである。舞台がうまくいってもともと,うまくゆかないと自分の責任を痛感するのである。治療した人の舞台を聴いていて,その人の能力とは別の時点で内心ハラハラさせられることになる。
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