創刊50周年記念特集 今日の耳鼻咽喉科/治療のコツと全身管理
耳—症候と疾患
動揺病(乗物酔い) Motion sickness
宮田 英雄
1
1岐阜大学医学部耳鼻咽喉科
pp.755-756
発行日 1978年10月20日
Published Date 1978/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492208725
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動揺病について
動揺病はヒトが船,自動車,汽車,飛行機,宇宙船などに乗り,本来遭遇しない乗物の動揺すなわち非生理的な,他動的な加速度にさらされることにより生じた精神,身体の病的状態をさすものである。motion sicknessは1881年にIrwinが乗物酔いに用いたのが最初であるといわれている。動揺病には船暈(sea sickness),車暈,空暈(airsickness),space sicknessが含まれ,その原因からKinotosen(Kosenbach,1896年),Bewegungskrankheit(Starkenstein,1932年)ともいわれ,長谷川高敏大阪大学名誉教授は加速度病と呼ぶのが科学的であると述べている。
この本態は,内耳前庭三半規管に非生理的な加速度刺激が反復して加わり前庭自律神経反射,前庭脊髄反射が破綻した状態である。症状として頭重,頭痛,フラフラ感,胸苦しい,あくび,無力感,冷汗,顔面蒼白,生つば,悪心,嘔吐をきたす。この発症には半規管への回転刺激より,耳石器への直線加速度刺激が意義があり,とくに上下の周期の大きい加速度が加わるときに動揺病がおこりやすい。ヒトの面からは迷路の過敏反応を示す者,たとえば回転後眼振の長い者,前庭自律神経反射で交感神経緊張を呈しやすい者が動揺病をおこしやすい。聾唖者(迷路機能廃絶者)は動揺病にかかりにくい。また,動揺病の発症には眼への外界の動く事物の刺激,心身の状態,馴れが影響する。
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