総説
内リンパ嚢の臨床的意義
石井 哲夫
1
1帝京大学医学部耳鼻咽喉科学教室
pp.411-419
発行日 1978年6月20日
Published Date 1978/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492208661
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I.はじめに
内リンパ嚢は人によつて随分評価の異なる器官である。長径13〜15mmといわれるこの平らな嚢状構造を重要な役割をまつたく演じていない痕跡器官とする人や内耳液の代謝に関与し,メニエール病発症の原因となるとする人や,メニエール病の手術対象にも選ばれている。
内耳の病理・病態生理を論ずる際に,神経系と感覚上皮の両面から考えを進めていく必要がある。感覚上皮は内耳液に浸つている状態であるので,内耳液の問題をどうしても避けることはできない。メニエール病における内リンパ水腫・内リンパ腔の虚脱・迷路炎・耳中毒など内耳液の代謝が決定的な役割を演じるものと考えられる。内リンパ液の問題やメニエール病の病理を検討するときに同じくどうしても避けられないのは内リンパ嚢である.内リンパ嚢の機能については多くの研究がなされており,臨床的に手術の対象ともなつているが,そのはたらきの重要さに関してはいくつかの意見がわかれている。本稿ではその主な研究の系統と証拠で裏付けされている推論とをまとめて,内リンパ嚢に関する現在の研究段階を記したいと思う。
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