特集 良性腫瘍
基礎
神経線維腫・神経鞘腫
武川 昭男
1
1金沢医科大学病理学教室
pp.777-786
発行日 1977年10月20日
Published Date 1977/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492208562
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はじめに,実地診療に関することを記すが,本誌の関連特集「悪性腫瘍」の中で,廣戸論文1)が提言しているbiopsyに関することは,私ども病理診断にたずさわつている者にとつても,日常困つていることを適切に指摘されたものであり,私自身,大いに啓発された。廣戸論文は主に悪性腫瘍を対象にして書かれたものであり,本号の対象とする良性腫瘍に対するbiopsyの問題と多少ニュアンスが異なる点も確かにある。たとえば小型の良性腫瘍の場合,治療的切除組織そのものが病理診断の対象となり,その間の時間的ずれによる致命的な不都合はない。しかし,本来biopsyはその診断結果に,事前の予測と異なるものが時にあるからこそ行なわれるものであるので,その間に良性・悪性の区別はないのである。
再発をくり返えすような症例では往々にして,その永い経過中,患者は転医をするものである。その場合,転医先の臨床担当医から相談を受ける立場の病理医にとつて困難を感ずるのは,以前の病理標本とその記録の入手である。受診する医師を選択する患者の自由が裏目に出た結果で,素人の患者の無理解による面があるとしても,それを責めていても事態は改善しないので,転医先からの照会があつた場合には,求められる資料の貸与に応ずるのが医師間の義務である。ここでさらに事柄を複雑にしているのは,第一線の診療所の大部分が病理検査室を備えていないために,切除検体を他の施設の病理検査室に送付して,その病理診断を依頼していることである。この複雑な回路を経ても,以前の資料の入手に努力しなければ的確な治療は果し難いことを強調したい。
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