特集 悪性腫瘍
転移の機構
佐藤 春郎
1
1東北大学抗酸菌病研究所
pp.693-698
発行日 1975年10月20日
Published Date 1975/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492208254
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I.はじめに
耳鼻科領域の悪性腫瘍の転移形成には何か特徴的なことがあるのだろうか。第一線で活躍している臨床家にきいてみると,まず第1に頸部リンパ節がおかされることが多く,とくに咽頭癌では意外と早期に転移のおこる場合が多いという。手術や放射線照射のあとの局所再発やリンパ節転移は,やはりこの領域の癌患者の完全治癒にとつて大きな障壁であることは他の癌の場合と同じであるとのことである。症例によつては全身に転移を来たすものもあるという。たしかにこの領域にはたとえば舌癌のように割に高率にかつ早期からリンパ節転移がみとめられるというものがあり,その理由として,リンパ管に富むという発生組織の解剖学的特殊性や,舌の運動と癌細胞の遊離との関連を類推させる興味深いものが存在する。しかし基礎的な立場からこの領域の癌の転移の問題に対しては余りアプローチされていないようである。本項においては実験的に近年究明されつつある転移形成機構について触れながら管見を述べてみよう。基礎的にまたは実験的に解明されつつある知見から,臨床的な問題へのアプローチが示唆されれば幸いである。
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