- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
I.はじめに
大気汚染1)によつて種々の気道疾患が惹起することは汚染地区学童の健康診断や公害病指定患者の検査所見などによつて疫学的臨床的あるいは実験的に立証されてい2)3)4)。しかし汚染物質や刺激物質が最初に吸入される鼻との関係からこの問題を論じた報告は少ない。さて鼻は気道の入口部にあつて第1次的な濾過防禦器として,生体が正常な呼吸機能を営む上に重要な役割を果たしている。その機能の主なものは吸気に対する鼻粘膜の除塵,保温,保湿作用である。鼻粘膜が正常であり,そして環境が良ければ当然この機能が十分発揮されており,なんのtroubleもなく生活することができる。しかし大気汚染などの悪環境下では正常な鼻粘膜にもなんらかの影響が生じてくる。この影響が一過性,可逆性のこともあろうし,持続性,不可逆性の変化に発展することもある。
当然鼻の場合には鼻粘膜反応が生じ,それぞれなんらかの情報が得られる。しかしながら鼻から得られる情報は,それが単なる警報的なものなのか,あるいは症状(疾患)としてなのか,それを鑑別することは非常に困難である。鼻におけるかかる情報を整理してみると,くしゃみ発作,鼻漏,鼻閉,嗅覚異常,鼻出血など非常に限定された範囲内にある。しかも警報としての情報も,症状としての情報もこの範囲のなかに入つてくる。いずれもこれらの情報の組合せであり,また時に質的にも量的にも同一であることも想定される。それ故正常な鼻粘膜に強度の刺激物質が反復吸入され,その結果生ずる一過性,可逆性の警報的な情報なのか,疾患にまで発展したために生じた症状なのかは不明であり,反復性のくしゃみ発作や鼻漏,鼻閉を同時に発見したからといつて,ただちに鼻アレルギーであると決めつける訳にはいかない。また鼻アレルギーの治療面でも,症状が続いているのか,警報的なものなのかを正しく判断することが,その効果を判定する上に非常に重要である。
Copyright © 1973, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.