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難聴や言語障害を訴えてくる患者をみていると他覚的には何ら障害らしいものを認めぬのに自覚的には重大な言語障害があると思い悩んでくる神経症的なものや,いわゆる自閉症や重度な精神薄弱までも含めてまつたく様様なものがくる。これらを大まかに分類しただけでもざつと難聴,精神発達遅滞,脳性麻痺,失語症,Dysarthrie,自閉症ないしそれに類する情緒障害,行動異常,口蓋裂,その他の言語発達遅滞,吃音,吶(Stammeln)などがあるが,これらがすべて直接言語治療の対象となるわけではない。しかし患者の方はことばの現象面だけにとらわれてくるのであるからいろいろなものがきたとしても止むを得ないことである。
ところでSpeech and hearing clinicで外来患者だけを扱つていると入院を要するような身体的に欠陥のあるものが訪れることはきわめて少ない。しかも訪れてくる患者の大部分は子供である。われわれの国立聴力言語障害センターで昭和46年度に扱つた新患620名余りのほぼ半分は難聴であり,残りの半数はそれ以外の原因に基づく言語障害であつたが,これらの幼児のAnamneseをとつていていつも感ずるのは母体の妊娠経過に異常のあつたもの,中でも切迫流産を経験したものが異常に多いことである。このような妊娠中の異常は胎児への酸素や栄養の供給の阻害を意味するだけに異常児発生の原因として重視されなければならないが,さらに新しい傾向としていわゆる未熟児,就中生下時体重2000g以下のものが散見されることである。このような未熟児のうち極度に小さなものはひと昔前ならばほとんどが死亡して問題にならなかつた。いわば「医学の進歩」によつて助けられた子供達なのである。もつとも医学の進歩によつて助けられたのは未熟児に限らないが,ただ問題はこれらには難聴やことばの障害を有するものが比較的多いというほかに重篤な精神遅滞や身体的ないし神経学的欠陥を根底に持つている場合が少なくないことである。このような子供を持つた親は子供を得たという喜びも束の間,長ずるにつれて言語発達の遅れや全体的発達の遅れに気づきそのうちあるものは聾とか精薄と診断されて悲痛のどん底に落し入れられるのである。
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