鏡下耳語
ある医師の希望と反省
高山 乙彦
1
1日本大学医学部耳鼻咽喉科
pp.646-647
発行日 1972年9月20日
Published Date 1972/9/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492207824
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今日も1日暮れた。今日は朝から一体何をしたろうか。電車から降りて家路にむかう10分位の徒歩の時間は,いつも私に何かしらほつとした開放感を味あわせてくれる。しかしその一種の反省とも言える僅かな時間において1日の充実感を感ずることはめつたにできない。私は淋しく思う。朝出かける時は今日のプランを脳裏にたて,張切つて出かけてゆく。しかし帰りには余りに小さい自分の力と,周囲から受ける種々もろもろの心地よくないこと,心地よいこと,苦しいことなどに圧迫されて私の心は平穏でないことが多い。時にはそれが就寝時までもつづき,気持よく眠りにつくことができるのは1年のうちで一体何日あるだろうか。考えて見ると月日は矢のごとく走り去り,自分の希望をわずかでも灯しながらこうして生活できるのは幸福なのであろう。医師としての使命感を緊張させながら歩むことの何ときびしい毎日であることか。
これらのことからもう少し自分の日常生活を分析して,それが現在の医師の生活であり,道であることを念頭におき,これでよいのか,何を改善し,よりよい歩みをつづけるにはどうしたらよいかを考えてみたいと思う。
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