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Ⅰ.緒言
外耳道保存鼓室成形術の最大の利点は,術後の管理がいたつて簡単なことである。いうまでもなく従来の鼓室成形術は,乳突腔を広く外耳道に開放したため,術後いろいろと厄介な問題を生じた。その点,外耳道後壁を保存すると,そのような術後の乳突腔に煩わされる心配はない。しかし逆に外耳道を保存したことで不便な点もある。それはこの術式で,Ⅲ,Ⅳ型を行なうとすると,外耳道深部後上壁がどうにも邪魔になつて,原法通りの術式ができないことである。それで仕方なく外耳道骨壁の深部を一部削除して,術式通り筋膜で鼓膜の形成を行なつてみると,できあがつた新鼓膜は,はなはだ不自然な形となり,聴力も改善しない場合が多い1)。これは,外耳道という筒の底に筋膜を挿置した場合,置かれた筋膜は,周囲に対し物理的にもつとも釣り合いのとれた安定した状態で線維性膜様構造になろうとするためで,結局,意図した漏斗状の形にはならず,むしろ扁平な形になつてしまう。したがつて新鼓膜は,本来の鼓膜輪を含む平面よりもかなり手前の外側で形成されることになる。いわゆる鼓膜の浅在化が生ずる。その結果,コルメラ効果や正円窓の遮蔽効果が失われてしまう。一方,高度な粘膜病変のため鼓室粘膜も除去してしまつた症例では,移植筋膜と鼓室壁とが癒着を起こし,逆に鼓室腔を失う結果となる。これは,移植した直後の筋膜がかなり腫脹し,陥没した状態になるためで,結果として癒着が起こるものと思う。そして,この方が,鼓膜の浅在化よりはるかに深刻な問題を生ずる。それは,治癒の遷延化に伴う再感染の危険性が常に付きまとうからである。
このように従来ならばⅢ,Ⅳ型あるいはコルメラⅢ型としたであろう症例に,薄い軟骨板を用いて鼓膜を形成してみた。軟骨は,筋膜のように腫脹したり,形を変えることがないので,最初に挿置した状態で鼓膜を形成することができる。それに伝音連鎖の再建には,固定した軟骨板とアブミ骨頭あるいはアブミ骨板との間に軟骨柱を挿入すればよい。問題は使用せる軟骨が,はたして伝音効果を持つであろうかということにある。この点については,手術成績より種々考察を加えた。大方のご批判を得れば幸いである。
A new surgical technic of meatotympanoplasty, similar to the posterior tympanotomy approach, is described for the restoration of sound conduction.
A thin lamella of cartilage removed from the auricle is used as a tympanic membrane graft which is sufficiently rigid to maintain its position. This new tympanic membrane is reconstructed in its normal position and not medially nor laterally.
The sound vibrations are transmitted from his new tympanic membrane by an autogenous cartilage columella to the intact stapes or the footplate.
In 8 out of 13 cases the air-bone gap was closed to be within 20 dB or better. In 2 out of 13 cases the air-bone gap closed to be within 25 to 30 dB.
In 3 cases where the air-bone was 35 dB or more, it was considered that a revision operation to be desireable.
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