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I.はじめに
われわれ一般の臨床耳鼻科医が慢性副鼻腔炎の手術を行なつた際に痛感するのは,その後療法の経過において必ずしも満足すべき状態を見るとは限らないことであろう。しかもこの疾病があまりにも日常多くみられるものであり,またその手術的療法があまりにも普遍的なものであるのでわれわれ自身その不満足な結果に馴れてしまつている嫌いがあるのではなかろうか。
通常のわが領域の成書を開いてみてもその病理組織学的な記述は詳細をきわめており,一般症状または治療法も詳述してはあるが,本疾患とアレルギーの関係につき論及してあるのはごく一部分しかも簡単に止めてある様に思われる。
すなわち大部分はアレルギー問題を全然別項目として記載してある様である。また古い成書において血管運動神経性鼻炎,または鼻性反射神経症なる文字をみるのであるが,これらもまたほとんど副鼻腔炎とは切り離して記述してある。
しかし最近これらの問題の相互関連性について追求する学者が増し,アレルギー性鼻疾患として副鼻腔炎にまで論及する傾向が強い様である。
Schambauchの「慢性感染症の90%はアレルギー因子による」というのは別としてもかなりの率でアレルギー的な要素が慢性副鼻腔炎に潜在していることは事実であるとされている。しかして今日この問題に関して盲目的である限り副鼻腔炎の治療において相変らず多数の不満足な経過をみることは避けられないのではなかろうか。
いうまでもなく1906年Pirquetに始まるアレルギーなる概念の提唱以来Rössle,Gerlachの病理学的な解明,さてはHanselによる始めての鼻科的領域におけるアレルギーの論述等々は著名な事実であるが,最近はまた名越,三沢らによると小児の慢性副鼻腔炎もその多くがアレルギー性炎であるとしているし,白川,武田らの慢性副鼻腔炎とアレルギーに関する報告は益々,鼻科領域におけるアレルギー問題の重要さを再認識せしめるものである。
私は一般的な概念における鼻アレルギーと慢性副鼻腔炎の問題,ことに手術的療法を施した後のいわゆる後療法の面において臨床的に二,三知見を得たのでここに記述してみたのである。
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