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Ⅰ.はじめに
現在私は,あたかも無実を叫び続ける囚人のような形で鼻咽腔炎のことを記し叫んでいる。だから,私がここに書くことに対してある方々はまた例の気狂いが始まつたかと相手にしては下さらないかも知れないと思つている次第である。そのような気遅れから,実はもつと思い切つていろいろと事実を述べたいのだが,必ずしも十分に筆が進まないのである。
鼻咽腔炎という疾患の認識の上に立つて物を考える場合と,従来のようにそれをneglectした考え方で物を考えてみた場合に,こんなにまでも違うものかということを私はしばしば経験する。たとえば咽喉部異常感を訴える患者に対し,この大部分が鼻咽腔炎に由来するものであるという私の従来からの診療経験の上に立つて患者の訴えをみてみると,きわめて多くの症例が,いとも容易に解決され,患者自身が,「どこへ行つても解らなかつたのが始めて明快に解決しました」というのであるが,この診断のプロセスの中に鼻咽腔炎が入らないと,まず喉頭部の精査から舌根,その他いろいろの検査が行なわれ,結局は自律神経の検査その他いろいろと広範な検査を必要とするようになることがある。
鼻咽腔炎というものの本質については,まだほとんど解つて戴けない感じであるが,私は医学の,あるいは耳鼻咽喉科学の将来を考えるとき,絶対に必要な分野であると考えるとともに,これこよつて将来の耳鼻咽喉科学は大いに変貌する可能性があるとも考えている。
以下申し述べようとする二,三の項目は例によつて先生方の信用を得ることは難しいかも知れないが,鼻咽腔学においてはほんの少しのエピソードを述べているつもりである。しかし,少なくとも私自身はここに述べることにも全責任をもつものであり虚偽の記載をしているのではないということだけは申し添えておきたいと思う。
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