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I.はじめに
内リンパの成生や,その高カリウムの維持,蝸牛内の神経興奮の伝達には,エネルギーが必要である。このエネルギーの供給源は,いうまでもなくATP(adenosine triphosphate)である。ATPの大部分は,ミトコンドリア内の酸化的燐酸化系(第1図)によつて産生される。電子がチトクロームcに移され,チトクローム酸化酵素によつて酸素が消費され,水が形成される。従来,蝸牛の酸素消費量の測定は,ワールブルグ検圧計を用いて試みられてきた1)2)3)。ワールブルグ法は,膜蝸牛あるいはその各回転のごとき微細組織の酸素消費量の測定には,感度が低いために適さない。カティージアン・ダイバー法は,感度は高いが,試料の正確な乾燥重量の測定が不可能である。したがつて,この実験には,ultra-micro-respirometerによる新しい方法を用いた4)。この方法によると,高感度と正確な乾量測定が可能である。
耳中毒性抗生物質による聴覚障害のメカニズムは,まだ完全に解明されてはいない。この耳中毒性抗生物質の一つであるカナマイシンに関してはおよそ次のような機構が推察されている。1.好気代謝の障害,2.細胞膜透過性におよぼす影響,3.蛋白合成の阻害。最近,カナマイシンと作用機転のよく似た5)ストレプトマイシンが,細菌の細胞膜を透過するのを,クロラムフェニコールが阻害することが報告された6)。一方,クロラムフェニコールをモルモットの正円窓に附着せしめると,これが内耳に移行して,蝸牛電位を低下せしめること7)8)9),また,これを組織形態学的にみると,基礎回転のコルチ器諸細胞および血管条に破壊像が認められること10),クロラムフェニコールによつてコルチ器内コハク酸脱水素酵素活性が阻害されること11),および,膜蝸牛の組織呼吸がクロラムフェニコールによつて抑制されること12)が明らかにされた。蝸牛膜透過性については,たとえば,膜ATPaseなどに関してかなりの知見がえられているが13)14),まだ解決されていない問題があまりにも多い。
The interaction which kanamycin and chloramphenicol cause upon tissue respiration of the membranous cochlea of the guinea pig was investigated by means of ultra-microrespirometer.
It was confirmed that when kanamycin and chloramphenicol are administered simultaneously a definite inhibition will be manifested in the cochlear respiration.
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