Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
I.はじめに
咽喉頭部に各種の異常感を訴える患者を診た場合,私の体験では,まずそれが,従来挙げられている原因のどれに該当するかを考えるのであるが,そのさいの診断的努力は"局所的"病変の有無の把握にもつぱら費されるのが常であつて,"全身的"病変の有無といつてもやはり"局所"の粘膜の色調から"全身的"な貧血上の存在に気をつける程度であつた。
したがつて,たいていの場合,舌根扁桃肥大とか,喉頭蓋の形状の異常とか,慢性の咽喉頭炎あるいは後鼻孔漏の有無。少し詳細に検索しても頸椎や茎状突起の化骨や形態異常の有無をX線的に観察したり,よほど閉塞感の強い場合食道造影撮影もしくは食道直達鏡検査を行なうぐらいであつて,特別に全身的な精密検査を行なうということは少なかつた。
そして,"局所"に,何らかの"異常"所見を認めた場合には,ほとんど無条件的にその"異常"をもつて異常感の原因だと決めてしまつて,その"異常"の治療に専念した。しかし私どもがしばしば経験するように,局所の治療で異常感が消失する症例は少なく,たとえば舌根扁桃に肥大を認めて切除をした23名の患者についてその予後をみても,わずか4名(17%)に異常感の消失をみるに過ぎず,その治癒率は低い。
同様なことは,慢性咽頭炎として長期間治療しても異常感の消失する症例が少ないという経験からもいうことができる。したがつて,"局所"の"異常"と"異常感"との結びつきはそれほど絶対的な強さのものではない。そこで,局所的な"異常"を"正常"に持ちきたらしても異常感が治らぬ場合には,これを"心身症"もつと具体的にいうと"咽喉がんノイローゼ"として精神安定剤の投与に委ねてしまう。しかしこの手でも患者の訴えから完全に逃げきることは困難で,大多数の例では「大分良くなりましたが」と「が」がついている。
このように,異常感の原因を局所もしくは心因にだけ求めて治療してもなお充分な効果を挙げ得ない。この現状から,局所的,心因的なfactorのほかに今ひとつ全身的なfactorが多少とも関与しているのではないかと考えて,異常感の成因を今までよりも広く求めたのがこの報告である。
That the disease entity of the abnormal sensation of the laryngeal region is not a simple matter was found as the result of studies on blood, gastric juice, hormones and autonomic nervous system.
The entity itself apears to be a highly complicated affair by being composed of factors deriving from three dierent sourses local, general and psychosomatic;the emphasis may be laid on any one of them or it may be shifted from one to the other.
Consequently, the author states that the treatment of this disease should be directed towards the means by which the causative factor may be eliminated by making a careful diagnostic analysis in the beginning.
Copyright © 1968, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.