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I.はじめに
耳鼻咽喉科領域における,いくつかの疾患においては,その原因が明らかでないために,または,その治療が困難であるために,完全治癒を望めない場合も少なくない。たとえば,難聴に例をとってみると,その原因が,伝音系に存在するものであれば,伝音機構を再建することにより,ある程度聴力の回復に希望を持つことができる。これに反して,感音系難聴の場合では,その病変が,蝸牛性や神経性のいずれにあるにしても,難聴の原因が多種多様であるために,その病因をつかみにくく,したがつて決定的な治療法が見あたらず,困惑させられてしまうことは,われわれが常に経験するところである。
そこで,感音系難聴を蝸牛性に限局して考えてみると,その病因が,Ménière氏病,突発性難聴など,内耳の循環障害に由来すると思われるもの,streptomycin,kanamycinなど薬物中毒によるもの,過大な音響刺激による音響性外傷,または老人性の内耳の退行変性など,いくつかの原因が考えられるが,このほかにももちろん原因不明のものも多い。
これらの難聴に対しては,従来,末梢血管拡張剤,Vitamine B1,抗ヒスタミン剤,Chondroitin sulfateなどが,もつとも多く用いられてきたが,かならずしも満足すべき成績がえられていない。近年,Adenosin triphosphate(ATP)が,その薬理作用から,内耳疾患に原因する難聴に使用されて,かなり良好な治療効果をあげており,ここに,興和株式会社によつて,開発されたATP剤であるAdetphos Kowa腸溶錠を,内耳性難聴に対して使用する機会をえたので,その成績について述べたいと思う。
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