Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
I.はじめに
口唇の腫脹をきたす疾患としては細菌感染,梅毒,結核,Lymphangioma,Lymphangiectasis,Elephantiasis,Hemangioma,Double-lip(上口唇に主として見られる奇型であるが,口唇内側の粘膜部が腫脹して,外側の口唇紅部との間に溝を生ずる状態であつて,話したり笑つたりする場合に著明となる),悪性腫瘍,Ascher症候群(口唇腫脹,眼瞼弛緩症,甲状腺腫を伴う),口唇の唾液腺の増殖に原因するCheihtis glandularis,MiescherのCheilitis granulomatosa,顔面腫脹(口唇に頻発),顔面神経麻痺,皺襞舌を伴うMelkersson-Rosenthal症候群,血管神経症などがある。
1945年MiescherはMelkersson-Rosenthal症候群と別個に,口唇が腫脹し組織学的に類上皮細胞の浸潤を主体とする結核様またはsarcoid様肉芽腫の組織像を呈する特異な慢性疾患をCheilitis granulomatosaと命名した。しかしその後Richter & Johne (1950)がCheilitisgranulomatosaとMelkersson-Rosenthal症候群における口唇の組織所見は同じであると唱えた。以来同調する人々が多い。最近では両者の差異は三主徴が完全に揃つているか否かにあるようである。Melkersson-Rosenthal症候群の腫脹は口唇に頻発するが,舌,頬,顎,額,歯齦にもみられるもので,これから逆に頬,顎,舌などの腫脹もCheilitis granulomatosaの病名の中に入れている考え方がある。谷奥は口唇,舌または頬部にそれぞれ単独に肉芽腫性腫脹を作つたものはCheilitis granulomatosa,Glossitis granulomatosa,Pareiitis granulomatosaとし,臨床上いずれを主症状とするかによつて診断を下すべきであると。そしてCheilitis granulomatosaとは厳密に口唇にのみ限局すべきものではなく,頬,舌,鼻などに波及するものもあると考えている。一方かような例をMelkersson-Rosenthal症候群の一亜型とみなしている人もある。谷奥は後程述べるように組織学的所見が複雑なため,むしろ特発性慢性口唇腫脹(Macrocheilia essentialis chronica)という名称が妥当ではないかと述べている。このように命名には疑義が多いがCheilitis granulomatosaの名称が一般化されているので,本文ではこちらを用いたい。従来は主として皮膚科領域から報告されており耳鼻咽喉科領域からの報告は数少ない。最近一般の人々は悪性腫瘍に対して異常なほどに敏感になつてきた。現在Cheilitis granulomatosaに対しては特効的な治療法が見当らないので経過が長い,悪性腫瘍ではないかと不安になつて耳鼻咽喉科へも訪れてくる。Cheilitis granulomatosaの腫脹部位は口唇の他に頬部,硬口蓋,顔面,舌,鼻にも及ぶものがあるので耳鼻咽喉科医も無関心ではすまされない。著者は最近下口唇の持続的腫脹の他に左頬部粘膜,両側舌下小丘部周囲にも腫脹がみられた症例を経験したので報告する。
A case of cheilitis granulomatosis is reported. A woman, aged, 33, complained of granular swelling on the inner surface of the lower lip and the region below the tongue. Microscopically the growth coincided well with the pathological picture described by Miescher. The patient improved with surgical removal of the growth and administration of corticosteroids.
Copyright © 1967, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.