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ヨーロッパ旅行記—第7回国際耳鼻咽喉科学会議出席記
西端 驥一
1
1慶応大学
pp.769-771
発行日 1964年8月20日
Published Date 1964/8/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492203311
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第6回国際学会(ワシントン)出席記は随分精しく書いたが,つぎの学会の記事は書く気がしなかつた。それには理由があつた。出発前から私の退職問題があつて,それに付随する後任問題もからみ,私の身辺には可成り不愉快な渦が巻いていて,帰ると共にこれが轟々と音を立て始めたからである。かてて加えて国際学会準備委員会の出足の悪かつたこと,開催地の検討を公明正大にやろうとせずに,陰での策動があるなど,当時の欝陶しさは今考えても腹立たしいものがあつた。とても学会出席記など書く気になれなかつた。それに書くとなると,気持のよい材料よりも不愉快な材料の方が多いので一層ペンをとる気持になれなかつたのである。
併し出席した人が多かつたにも拘わらず,まとまつた出席記を書く人がなかつたし,東京での第8回国際学会も近づいたから,今書いておかないと,どんないきさつで日本が開催地になつたか,それが決定するまでの状勢や日本の努力がどんなものであつたかが永久に埋もれてしまう。それで漸くペンをとることにしたが真相をありのままに書くと,相当にさしさわりが出来るので,幾分ぼかしておくことにする。ギリギりの真相は別記しておいて私や関係者が死んでからでも発表して貰つたらよい。綺麗事ずくめの伝記や記事は役に立たないばかりか真実を曲げることの方が恐ろしい。
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