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まえがき
急性のショック様症状に襲われた場合,それが一次性ショックであろうと,二次的のものであろうと,あるいは薬物の特異反応によるものであろうとも患者の生命に及ぼす危険性と医師の精神的負担とははかり知れぬものがある。ことに耳鼻咽喉科領域においては患者が極めて元気であり,周囲の者も手術を軽視し易いものである。しかしながらわれわれの扱う手術は部位的に見れば最もショックを誘発し易い部に属し,事実,事故発生率から見ても各科のトップグループにあることから種々の原因によるショック様症状の救急処置については平常より備えを怠ってはならない。ここに表記した救急対策はわが教室において大藤教授が着任以来,常に上級医員に命じて救急対策を練らせ,その時代々々に適する如く毎年改訂を行った臨床必読書の一部と,本特集号に記載されたショック様症状の対策を合せ表示したものである。われわれ医局員は外来および医局に配置された臨床必読を事ある毎に熟読せしめられ,これにより偶発事故を無事に処理し得た場合が少くない。ショックの本態,発生機序の究明は最近著しく進歩したとは云え未だ不明の点も多く,したがつてショックの定義さえ確定されぬ現況であることから見てもショックに対する考え方はこれから先も時々刻々と変つて行くであろう。それ故本表もそれに応じて書き改められねばならない。また臨床医家の中には経験的にあるいは実験的にショック様症状に対する良い対策をお持ちの方もおられるであろう。その様な方は是非その方法を自家薬籠の中から取り出してお知らせ頂き本表をより適切なものとするための資とされんことを望む次第である。
ショックの対策は,その予防に始まり治療へと移つてゆくが,それのみを以て終るものではない。脱感作法,体質改善などの後始末もまた必要であるが,それはここには述べない。日常臨床に用いられる薬物によつてもショック様症状は起り得るし,術中に生ずるであろう偶発事故を防止する為に与えられた前投薬によつてもまたそれによるアナフィラキシー様症状が起り得る。したがつて本表の中にはそれに対する処置も入れておいた。ここに記された対策は実験的研究に基礎をおくものばかりではない多分に経験的に使用されるものも含まれている。多くの発表にもとずき救急対策として効果があつたと認められるものの最大公約数が列記されているものと考えて頂きたい。また多記された対策の一つをもつて助命効果を上げたということは少く併用によつて始めて重篤な症状を除去し得たと思われる報告が多いことも一応念頭に留めて置いて頂きたい。
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