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はしがき
神経機序の関与しないショックはないと思われるが,ここでは,反射性の神経機序で成立するショック,つまり,一次型ショックをうかがいたい。一次ショック(primary shock)は第一次大戦のとき,英国のCowell(1919)が人体ではじめて同定したが,そのCowellの一次ショックに類したタイプのショックをすべてひつくるめて一次型ショックとよぶことにする。ショックを論ずるときは,その定義がこんにち一定していないから,どうしても,その臨床内容を規定してかからなくてはならない。これを規定しない論は,あたかも中ソの論争のように,テーマを同じくして異つた議題をつつきあうことになりやすい。それで,ここでは,低血圧(low blood pressure),皮膚蒼白厥冷(cold,clamy,and pale skin),および周囲に無関心(apathy)の三主徴を与えた状態と解しておく。この三主徴をそなえなければショックとはよばないことにしたい。しかし,エーテル麻酔の影響とか,環境温度が高いとか,輸血の影響とかで,顔面が蒼白でなく普通の色調で温かいというようなことはありうるので,こういつた外的条件で修飾されているか否かは,慎重に吟味しなくてはならない。たとえ修飾はあつても本質的に三主徴がそろつていると判断されれば,それはショックにちがいない。
耳鼻科の友人から聞いた話だが,耳鼻咽喉科領域では,ショックの発生がなかなか多いのだそうである。外科でも顔面・頭部・頸部などの損傷や外科処置では,ショックが発生することが少くないから,もつともであろうと思う。Aschner試験で知られているように,眼球を圧迫すると徐脈になるし,眼科手術3500例に1例は心停止が発生し(Kirsch 1957),米国では年間少くとも45例が眼手術で死亡するそうである(Gartner 1958)。こういつたものは三叉神経の知覚線維を介している反射であろう。また,左眼球に浸潤した細網肉腫で,特発性に失神-ショック発作をくりかえした等という症例がある(Weiss 1935)。これは腫瘤が眼球を圧迫するためで,oculovagalの反射によると思われる。急性緑内障の特発失神も同じ機序にもとづくのであろう。してみると,耳鼻科領域にショック発生が少くないという話は,もつともなこととおもわれる。そのショックの少なからぬ部分は一次型ショックで,したがつて,予防も可能なのではあるまいかと想像される。
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