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I.序説
耳鼻咽喉科領域の手術分野の双壁としてあげられるものは,副鼻腔炎手術と中耳炎手術である事は衆目の一致する所である。然るに両者の後療法に就いて幾多の研究が行われ,加えるに化学療法の発達と相俟つて完成されたかに見えるが,事実は各人の経験が主となり,その方法は実に千差万別で一長一短がある。我々が中耳炎手術を行い,その後療法に努力しても不幸にして再手術を施す必要のある事は屡々経験する所である。それで(1)手術の不完全な場合。(2)手術が大体完全に行われた場合。に分けて考察してみたい。
数十年前の乳嘴突起手術Antrotomie,Mastoidektomieや中耳根治手術は現在の手術に比較すると,名称こそ同じであるが,実質には雲泥の差がある。昔はMastoidektomieと云えば乳様洞,乳様蜂巣の掻爬を不完全に行つた位であり中耳根治手術は之にBrückeと耳小骨の除去をしたにすぎない。然るに現在は乳様蜂巣は勿論,頬骨蜂巣,闥閾蜂巣,迷路周囲蜂巣,S状洞周囲蜂巣等と精しく分類して之を掻爬開放し,然かも更に錐体蜂巣迄も開放し,換言すれば側頭骨蜂巣全体を手術の対象とする様になつた。然るに之等の蜂巣を完全に掻爬する事の困難さが何処にあるかと云うと,気胞化の個体差が激しい事と,内耳,脳膜,顔面神経を損傷する恐れの多い事による。それで病的蜂巣が略々完全に掻爬された場合を一応完全に手術されたとしてよい。併しこの場合病的ではないが,尚蜂巣が遺残されている事があり得る。仁保等62)66)は残存含気蜂巣は頭重感,眩暈,耳鳴,肩凝り等の諸症状となつて現われ,故に全例に亘り従来の根治手術のみで止める事なく保存的側頭骨手術,即ち従来の保存的中耳根治手術に錐体手術を加え,或は側頭骨根治手術,即ち中耳根治手術に錐体手術を行う方が良いと述べている。
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