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I.
難聴者の中には,静寂な環境に於けるよりも騒音中にある方がその聴力が良いという。むしろ奇異な訴えを持つものが稀にある。これが所謂Willis氏錯聴である。Willisが本症候を認めたのは1680年の事であるが,その成因に関する追求は漸く19世紀の末より行われた。現在迄に報告されているその成因に関する考察には,大きく対立する2つの考えがある。その第1は,実際にこの現象が存在するとして,その成因を追求するものであり,第2は実際には存在せず種々の要因による見せかけの現象に過ぎないとするものである。
1880年Politzerは音叉によつて頭骨に振動をあたえた実験から,本現象の本態は頭骨の振動が聴小骨連鎖の硬直を緩解する事によつて起ると推察し,その後1913年Urbantschitschは,内耳に達した騒音が直接その感受性を高めるのであろうと発表した。この2つの考えは,伝音機構にその成因を置くものと感音機構におくものとの相異であるが,いずれにせよ騒音中で聴力が良くなるという現象が事実存在するという事を認める。即ち先述の第1の立ち場に立つものであるという点では同等である。
In order to ascertain the cause of paracusis willisiana, an ability to hear best in a loud din, various studids are made on a patient who is found to be affected with this disease. It is concluded that instead of the hearing becoming better in presence of extraneous noises the conversation under such conditions is ussually carried out at a louder pitch and, therefore, the betterment of hearing.
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