特集 喉頭腫瘍
喉頭悪性腫瘍の放射線治療による副損傷
竹田 千里
1
1自衞隊中央病院耳鼻咽喉科
pp.381-388
発行日 1958年5月20日
Published Date 1958/5/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492202006
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古くから大病院で耳鼻咽喉科の診療にあたつている人々は,恐らく1〜2例の照射性喉頭壊疽に遭遇され,その惨状に目を蔽われた経験をお持ちのことと思う。第二次大戦以前においては,耳鼻科医としての立場から放射線治療に反対し,これを以つて百害あつて一利なしとまで極言する人もあつたが,これらの主張の根拠は主として照射による副損傷の犠牲者を目のあたりにされたからであつた。然しながら当時‘我国における放射線治療はあまり普及されていなかつたし,同一患者に関する系統的な記録も充分でなく,同じ患者が頸部良性疾患の治療の目的で方々の病院の射放線科を遍歴し,若干ずつの線量を照射されているうち,遂に総線量の過大をきたして重症壊疽をおこし,放射線の射入口から射出口に到る全組織が崩壊すると云う様な結果に立ちいたるものもあつた。この様な症例は,同一患者についての照射歴が明かでないために総線量の過大をきたした場合とか,または放射線治療の創始期で線量測定の基準が確立していなかつた時代,あるいは,大照射野に一時に大量の線量を放射していた時代におこつたことであつて,現今合理的な放射線治療では全く起り得ない事柄である。すなわち身体の何所の部分に対しても,無制限な照射をすれば組織の壊死,崩壊をきたすのは当然であり,何も喉頭照射に限つたことではないからである。
喉頭腫瘍に照射を行う場合,後期皮膚潰瘍を貽すような強照射は行われないのであるから,今日の問題は,身体他部―の皮膚その他の軟組織―に傷害を貽さない程度の線量によつて,何故に喉頭は傷害されるのであろうか,と云う点である。
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