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扁桃の悪性腫瘍は容易に周囲の咽頭粘膜に進展するか,又は相対する舌根の側縁に浸潤し,扁桃から舌根にわたる『扁桃舌根癌』といつた口腔咽頭癌の一つの型を作つている。この型の悪性腫瘍を如何に治療するかに就ては余り論ぜられていなかつた。手術が極めて困難であるということのために多くは放射線治療に委ねられていたが,その予後は極めて不良なものであつた。1954年R. NO ERが口腔癌の治療法の現況に就て述べた中に,口腔癌のうちで扁桃咽頭癌の治療が最も難しく,適当な確定した方法を見出し得ないが,現在行つているのは,咽頭の原発竈にはレ線照射を行い,頸部は淋巴節の廓清術を行う方法であると記してあるによつても,この部位の悪性腫瘍の手術の困難なことが知られる。この部位の悪性腫瘍が手術に委ねられようとしない大きな理由は,複雑な解剖学的関係や,近くに大血管の存在することから腫瘍の充分な分離が困難であること,及び周囲粘膜の浸潤範囲の決定が困難であること等であると思う。然しこの局所解剖学的関係の複雑さも,外頸部から系統的に進んでゆくと,分離するにそれ程難しいものでないことがわかる。平な言葉で云えば,この部位を表面(内腔)から見ていると手術は難しさうに思えるが,その裏面から行うと案外に容易である。又腫瘍の浸潤範囲の限界の決定には術前にレ線照射を充分量行つておくことである。レ線照射を行うと腫瘍が縮少し,周囲の境界がはつきりし,隣接の粘膜が肥厚し白色に変色するので,病的部位切除の目標を得ることが出来る。このことは手術を非常に容易にするものであつて,従来信ぜられていた術前照射の欠点はこの部位の腫瘍の手術には見出すことが出来ない。抗生物質の使用も又この欠点の防止に大きな役目を果していることは確かである。
Pharyngotomyは大別すると Lateral Pharyngotomy Transversal Pharyngotomy とに分けることが出来る。最も普及しているものはTROTTER, ORTON等の記載によるLateral Thyroid Pharyngotomyであつて,鈴木氏もこの方法によつて咽頭から舌根に亘る悪性腫瘍の手術を行つた例を報告している。Transve—rsal Pharyngotomyも古い歴史を持ち,PORT—MANN. RETHI, BLASSINGAME等により記載されている。我が教室に於ても嘗てはこの進路を択んたが,最近は次に述べるようなBucco-pha—ryngotomyを行うことにしている。この進路も古い歴史を持つものであつて,KOCHERの顎下三角(Submandibular triangle)を進攻門戸とする方法に始まつている。
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