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気になる鼻
S
pp.281
発行日 1954年6月20日
Published Date 1954/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492201143
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私の知つてる或る婦人に,妙な癖を持つているのがある。35,6歳の中流婦人で,相当の財産と閑暇とを持ち,人柄もよく快活で,顏立も10人並というところ,まあそこいらにざらにある女なのである。ところで,何かのついでに,鼻の話が出ると,彼女はひどく敏感で,即座に片袖で自分の鼻を押え,片手を振つて,鼻の話は止めませうと云うのだ。そのくせ,彼女の鼻はいくらか団子鼻ではあるが,さほど醜いものではない。それを自分でひどく醜悪だと自信しているらしい。或は鼻で何かよほど不幸な目にあったものらしい。―彼女に云わすれば,意志や修養など自分の力ではどうにもならない肉体的欠陷は,当人の前で口にすべきではないのである。
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